私たちは物質としての身体(肉体)だけではなく、思考・判断・知覚・感情・意思などのさまざまな働きをする内面活動をしています。それは、意識、心、精神、マインドなどと呼ばれます。この実態のつかめない代物について、もっと理解を深めたいという人類の欲求が、古代ギリシャ時代からの哲学、近代の心理学、精神医学、脳科学などを発展させてきました。
私は、この内面の働きをざっくりと「思考」と「感情」に分けて考えています。現代の私たちは「思考」を使うことが多く、「感情」を感じられなくなっている人も少なくありません。自分の「感情」と仲良くなることが、幸せを感じる第一歩になることがあります。
「感情」は「思考」と比べると、身体とより深くつながっています。
たとえば、喜怒哀楽などの「感情」を感じるとき、私たちはドキドキしたり、ほてったり、キュッとしたり、身体の変化を感じます。このとき実際に、神経伝達物質やホルモンのバランス、血圧、呼吸数の変化、筋肉緊張、瞳孔拡大など、身体に生理的変化が起きています。
1884~1885年ころ、アメリカの心理学者ジェームズ(W.James)とデンマークの心理学者ランゲ(C.Lange)は、「生理的変化が先にあり、感情が後に生じる」すなわち「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」とする説を発表しました。(ジェームズ・ランゲ説)。
1927年には生理学者のキャノンが「視床が感情を起こす中枢である。」と提唱しました。(キャノン・バード説)。視床は、脳の真ん中あたりにある、嗅覚以外の感覚が集まる場所です。知覚刺激は視床を通過するときに感情を起こし、その情報が末梢神経に伝わって生理的変化を起こすという説です。
それぞれ、批判や細かい論争はあるものの、西洋近代科学の世界では「感情と肉体は密接に関わっている」という内容は、ほぼほぼ合意されています。
ちょっとだけ時間をとって、エクササイズをしてみましょう。喜んだとき、怒ったとき、悲しいとき、楽しいときを思い出して、その時の身体感覚を観察します。どこをみているか、腕はどこにあるか、筋肉の硬さはどうか、足の組み方など、喜怒哀楽の「感情」によって変化があることに気づきましょう。
次に、「思考」を使ってみましょう。朝食は何を食べたか、夕食は何を食べようか、明日の仕事の準備は何をしたら良いかなどなど。少しの時間考え事をしたら、身体を思い出してください。そして身体の感覚について、「感情」を感じたときと比較してみましょう。
「感情」を感じたときの方が、身体感覚との密着度が高く感じなかったでしょうか。
「思考」を使っているとき、身体から離れている感覚はなかったでしょうか。
いろいろ考え事をするのが好きな私は、昔から「思考ばかり使わないで、しっかり感じて。」と、よく言われたものです。でも、どうしたら感じられるのかは、誰も教えてくれませんでした。
「感情」と仲良くなりたいと思ったら、まずは身体を感じてみましょう。ヨガでも太極拳でも、アロマセラピーでも整体でも良いです。そこであなたは、泉のように湧き出るあなたの豊かな「感情」に出会うかもしれません。その出会いは、幸せを感じる出発点となる可能性も秘めているのです。
(文:飯田みゆき)
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森と魂のセラピスト、森林インストラクター、ハーバルプラクティショナー、薬剤師。
テーマ『自然と対話し、自分と対話し、今ここにある自分を祝福する』。
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